ドリームキャッチャー

ドリームキャッチャーアメリカインディアンの魔よけのお守りである。糸で編んだ蜘蛛の巣のような小さな網であり、楽しい夢や幸せな夢は通し、悪夢や不幸な夢はその糸で絡め取る。派手な色合いの蜘蛛の巣であり、アメリカの観光地で売っている。僕もひとつ欲しいなァ。毎晩暗い夢や不条理な夢にうなされている僕としては多分必携品だ。でも間違えて裏返しに吊るし、幸せな夢は絡め取られ不幸な夢は素通しだったりして…。

スティーヴン・キングは読みづらい作家だが、年末年始でやっとひとつ読み終わった。今まで何度かトライしたが、冗長であったり散漫であったりで、一作品を読み通す事は出来なかった。(僕だけがそう感じるのか?何しろ世界的な大作家なんだから…)グリーンマイルもやっと一分冊読んだような気がする。(確か4〜5分冊に分かれていた)今回トライしたのは「ドリームキャッチャー」、彼としては珍しい?SFエンターテインメントである。

読んでみてとにかくスラングが多いし、話が方々へ飛ぶし、引用もやたら多い。それも時間と場所を超え…。お釈迦様まで出てきてジジイがどうしたとか言われて、お釈迦様に失礼であろう。だから中々読み進めづらい。アメリカ人はロウアーもアッパーもあんなにしょっちゅうダジャレやスラングを連発しているのだろうか?それとこれらの日本語訳が中々難しい。本当のニュアンスや面白さが伝わらない。「とんでも8分歩いて5分」「まいったバナナは目で分かる」位はいいが、「尻(けつ)割って死ね」「ふにゃまらオッサン」さらに「ファック何とか」と続くと結構疲れてくる。これを登場人物の全員が叫び続ける。町のチンピラもインテリも軍人も。アメリカ人って一体どんな人種なんだ?穏やかな日本人としてはかなり困惑する。

話は子供の時からの4人組+1人が大事件に巻き込まれる。この4人組は他の作品にもよく出て来るようだ。多分「スタンドバイミー」もこの4人組だろう。(読んでいないからよく分からないが…)この作品はいづれ読まなきゃならない。今や中年になったこの4人組、ビーヴァー、ピート、ヘンリー、ジョンジーが何年ぶりかにメイン州北部の山奥のビーヴァーの山荘「壁の穴」に鹿狩りに行く。アメリカ人は鹿狩りが好きなようだ。昔「ディアハンター」という名作もあった。熊や狼に襲われるだけでなく、人にまで狙われるおとなしい鹿はいい面の皮である。+1人のダディッツはダウン症の中年で、彼らとは子供の頃からの深い絆で結ばれている。彼は言葉も満足に話せないが、4人にはその言葉が理解でき、しかもダディッツの力で彼らにも黄色い線が見える。

彼らは山の中で恐ろしい事件に巻き込まれる。クソッタレのエイリアンに襲われるのである。彼らだけではなくその地域の全ての人がこの厄災に襲われ汚染される。あるいは汚染を恐れる政府の秘密機関に抹殺される。彼らはそれらから必死の脱出を図るが、多くの人達と、ビーヴァーとピートは死んでしまう。このエイリアンはさすがにキングだけあり相当ひねこびたエイリアンだ。一見灰色の小さな体と真っ黒い大きな眼を持つ非力なエイリアンに見える。そして山中に墜落した400メートルもある宇宙船の周りで、人間に盛んに思念を送ってくる。「ここは感染の危険はありません」「私達は身を守るすべを持ちません」「私達は死にかけています」一見非力そうな遭難者を装い、実は回りに猛烈な汚染を広げている。

彼等の実態はある種の菌類のようなもので、生体の宿主に寄生し彼等の心を乗っ取るという、陰険で厄介なクソッタレ・エイリアンである。体の中に侵入した菌類はその人の内臓を食べて成長していく。でもあの見るに耐えない映画「エイリアン」のような絶対的な強さはない。彼らは寒さに弱いし火にも弱く、火を付けるとよく燃える。成長したバイラムは最後に肛門を食い破り、ヌルヌルした赤いクソイタチのような姿を現す。それに感染した人達は体中に赤いカビを生やし、とんでもないでかい屁をこき、その悪臭は耐えられない。エーテルと腐ったバナナの匂いを合わせた、死にそうになるような悪臭だ。と言われても実感が湧かないが…。この頃僕は健康対策で朝はバナナ1本で押さえている。(良いのか悪いのかよく分からない)バナナは腐りやすいがあまり腐らないうちに食べてしまうので、本当の腐敗臭がどれほど凄いのかは分からない。小説とはいえばばっちいエイリアンだ。ジョンジーは別荘に現れたミスター・グレイの頭部が爆発し、その胞子を吸い込み心を乗っ取られる。

後半はこの星を乗っ取ろうと、ボストンの巨大貯水池に急ぐジョンジーに乗り移ったエイリアンと、それを止めようとする特殊部隊のオーウェンと我らがヘンリー、さらにそれを追うクレージー司令官カーツ一味の距離を置いたカーチェイスになる。ミスター・グレイは貯水池にクソイタチを沈め汚染を広げようとしている。この争いの中でスラングが連発され、彼等の常套句「SSDD=セームシット・ディファラントディ」「ノーバウンス・ノープレイ」も乱発される。ヘンリーは途中のデリーで仲間のダディッツを拾う。彼こそ強力なテレパスで、4人の力は彼から与えられたものだ。しかも今ダディッツは白血病で死にかけている。しかし彼は自分の果たすべき役割を知っている。つまりこのひねこびたテレパス・エイリアンに対抗するには、同じ力が必要なのだ。こうしてストーリーは大団円に行き着く。という面妖なSFだ。

この文章を書いているだけで結構疲れてくる。まあキングもこのSFを書くのに半年かけているから、彼だってかなり疲れただろう。この小説のタイトルで面白い話がある。キングがタイトルを「癌」にしようとしたが彼の妻が猛烈に反対し、とうとう「ドリームキャッチャー」になったという。映画も作られたらしいが観る気はしない。多分爽快でない映像が続くだろう。しばらくスティーヴン・キングは敬遠し、そのうち「スタンドバイミー」を読んでみよう。子供達(多分小学生?)までスラングを連発する事はないだろう…。でもキングの事だから保証の限りではないネ。